AIとSEは共存できるのか。これからのエンジニアに残る価値
はじめに
AIによって、SE(システムエンジニア)の仕事はなくなるのか。
最近、この問いを目にする機会が増えました。コード生成AIを使えば、簡単な実装や調査、テストコードの作成、エラーの原因調査までかなりの速度で進められます。実際に、Stack Overflow Developer Survey 2025では、回答者の84%が開発プロセスでAIツールを使っている、または使う予定があるとされています。
一方で、同じ調査ではAIへの信頼が十分に高いわけではないことも示されています。AIの出力は便利ですが、常に正しいわけではありません。Google CloudのDORAによる2025年のAI支援開発レポートでも、AIがソフトウェア開発の進め方を大きく変えている一方で、チームの能力や組織の運用が重要になることが示されています。
つまり、AIはSEを単純に置き換える存在というより、SEの仕事の重心を変える存在だと考えています。
この記事では、AIとSEがどのように共存していくのか、そしてこれからのSEにどんな価値が残るのかを整理します。
結論:AIは「作業」を奪うが、「責任」は奪えない
先に結論を書くと、AIはSEの仕事の一部を確実に代替します。
特に、以下のような作業はAIに任せやすくなっています。
- 定型的なコードの作成
- 既存コードの説明
- エラー文の読み解き
- テストケースのたたき台作成
- ドキュメントの下書き
- 技術選定の初期調査
ただし、AIが出したものをそのまま本番に出せるかというと、そうではありません。
なぜなら、開発には「動くコードを書く」以外の責任があるからです。
- この仕様で本当に業務が回るのか
- 既存システムへの影響はないか
- 将来的に保守できる設計か
- セキュリティ上の問題はないか
- 障害が起きたときに説明できるか
- ユーザーにとって本当に必要な機能か
AIは答えを出すことはできます。しかし、その答えを採用する責任は人間に残ります。
ここに、SEの価値があります。
AIによって変わるSEの仕事
これまでのSEの仕事は、かなりの割合で「調べる」「書く」「直す」に時間を使っていました。
たとえば、エラーが出たときに検索して、似たような事例を探し、公式ドキュメントを読み、試して、またエラーを見て修正する。これは開発では当たり前の作業です。
AIを使うと、このサイクルはかなり短くなります。
エラー文を貼れば原因の候補を出してくれる。既存コードを渡せば処理内容を説明してくれる。ざっくりした要件を伝えれば、実装案を出してくれる。
その結果、SEの仕事は次のように変わっていくと考えています。
Before:
自分で調べる → 自分で書く → 自分で直す
After:
AIに案を出させる → 人間が判断する → 必要に応じて修正する
つまり、手を動かす時間が減り、判断する時間が増えていきます。
これは楽になるという意味でもありますが、同時にごまかしが効かなくなるという意味でもあります。
AIが出したコードの良し悪しを判断できなければ、間違った実装を速く積み上げてしまうからです。
AI時代に弱くなるSE
AI時代に厳しくなるのは、「言われたものをそのまま作るだけ」のSEかもしれません。
もちろん、手順どおりに実装できる力は今でも大切です。ただ、その価値はAIによって相対的に下がっていく可能性があります。
たとえば、次のような仕事の仕方はAIと競合しやすいです。
- 仕様の背景を理解せず、チケットの文言だけで実装する
- コードの意味よりも、動けばよいという判断をする
- 設計や保守性を考えず、その場の修正で済ませる
- 業務理解やユーザー理解に関心を持たない
- AIの出力を確認せずに貼り付ける
AIは「それっぽいもの」を高速に作れます。
そのため、人間が同じ土俵で「それっぽい実装を速く作る」だけに寄ってしまうと、価値を出しにくくなります。
AI時代に強くなるSE
逆に、AI時代に強くなるSEは、AIを使って作業速度を上げながら、最終的な判断を担える人だと思います。
具体的には、以下のような力です。
1. 要件を整理する力
AIは、曖昧な要望に対しても答えを出します。
ただし、曖昧な要望から出てくる答えは、やはり曖昧です。
「管理画面に検索機能を追加したい」と言われたときに、検索対象は何か、部分一致なのか完全一致なのか、権限によって見えるデータは変わるのか、パフォーマンス要件はあるのか。
こうした前提を整理できるSEは、AI時代でも価値があります。
むしろ、AIに正しく指示を出すために、要件整理の重要性は上がるはずです。
2. 設計の良し悪しを判断する力
AIはコードを書けますが、その設計が長期的に良いかまでは文脈に依存します。
たとえば、今だけ動けばよい処理なのか、今後も拡張される可能性がある処理なのか。既存の設計思想に合わせるべきなのか、切り出して責務を分けるべきなのか。
こうした判断は、プロジェクトの背景を知っている人間の役割です。
AIに設計案を複数出させることはできます。しかし、どれを採用するかを決めるには、システム全体の理解が必要です。
3. レビューする力
AIの普及によって、コードを書く量は増える可能性があります。
しかし、コードが増えればレビューの重要性も上がります。
GitLabの調査を紹介した報道では、多くの企業がAIコードツールを導入する一方で、AI生成コードのガバナンスやレビューが課題になっているとされています。これは、AIがコードを書くほど、人間のレビュー責任が重くなることを示しています。
これからは「自分で書ける人」だけでなく、「AIが書いたコードを安全に受け入れられる人」が重要になります。
4. 業務を理解する力
SEの価値は、コードだけではありません。
業務の流れを理解し、現場の困りごとを整理し、システムに落とし込むことも大切な仕事です。
AIは一般的な知識をもとに提案できますが、特定の会社の業務、チームの事情、過去の経緯、暗黙知までは最初から理解していません。
「この会社ではなぜこの運用になっているのか」
「この機能を変えると、どの部署に影響が出るのか」
「本当にシステムで解決すべき問題なのか」
こうした問いを立てられるSEは、AIと共存しやすいです。
AIを使うSEに必要な姿勢
AI時代のSEに必要なのは、AIを過信しないことです。
AIは非常に便利ですが、間違えることもあります。古い情報を出すこともあります。存在しないAPIをもっともらしく説明することもあります。
そのため、AIを使うときは以下を意識したいです。
- 公式ドキュメントで確認する
- 小さく動かして検証する
- テストを書く
- 既存コードとの差分を見る
- セキュリティや権限まわりは特に慎重に確認する
- なぜその実装にしたのか説明できる状態にする
AIの出力をそのまま信じるのではなく、たたき台として使う。
この姿勢が大切です。
AIとSEの共存は「役割分担」から始まる
AIとSEの共存を考えるとき、「AIに仕事を奪われるかどうか」だけで見ると不安が大きくなります。
でも、実務ではもう少し具体的に役割分担を考えたほうがよいと思います。
たとえば、以下のような分担です。
AIに任せること
- たたき台の作成
- 調査の初速を上げる
- コードの説明
- テスト観点の洗い出し
- ドキュメントの下書き
SEが担うこと
- 要件の整理
- 採用する案の判断
- 設計方針の決定
- 品質・セキュリティの確認
- 業務影響の把握
- 最終的な説明責任
AIは、優秀な補助輪にもなりますし、雑に使えば事故の原因にもなります。
だからこそ、SEはAIを「自分の代わりに考えてくれる存在」ではなく、「自分の思考を速くする道具」として扱うべきです。
これからSEを目指す人はどうすればよいか
これからSEを目指す人にとって、AIは脅威でもありますが、学習の味方にもなります。
わからないコードを説明してもらえる。エラーの意味を噛み砕いてもらえる。学習ロードマップを作ってもらえる。これはかなり大きなメリットです。
ただし、AIだけに頼ると基礎が抜ける危険もあります。
特に、以下は地道に身につけたほうがよいです。
- プログラミングの基本構文
- データ構造
- HTTPやDBの基本
- Gitの使い方
- テストの考え方
- セキュリティの基礎
- 読みやすいコードを書く力
AIがあるから基礎が不要になるのではありません。
AIがあるからこそ、基礎がある人とない人の差が出やすくなると思います。
まとめ
AIとSEは共存できます。
ただし、共存の形は「AIが便利な道具として横にいる」という単純なものではありません。
AIによって、SEの仕事は変わります。
コードを書く量そのものよりも、要件を整理する力、設計を判断する力、レビューする力、業務を理解する力、そして説明責任を持つ力がより重要になります。
AIは作業を速くします。
でも、何を作るべきか、どこまで品質を担保するか、なぜその設計にするのかを決めるのは、まだ人間の仕事です。
これからのSEに求められるのは、AIに勝つことではありません。
AIを使いながら、人間にしか担えない責任を果たすことです。
その意味で、AI時代のSEはなくなるのではなく、より「考える仕事」に近づいていくのだと思います。
参考
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