はじめに
Gitのブランチ戦略は、チーム開発を始めると必ず一度は議論になるテーマです。
Git Flow、GitHub Flow、GitLab Flow、独自ルール……調べれば調べるほど「ちゃんとした戦略」を作りたくなります。
ですが実務では、ブランチ戦略を複雑にしたことが、開発体験を良くしたケースは意外と少ないと感じています。
この記事では、
- なぜブランチ戦略はシンプルな方が良いのか
- 複雑にした結果、何が起きがちなのか
- 私が実務で「ここまでで十分」と感じているライン
といった点を、設計思想寄りの視点で整理します。
「どの戦略が正解か」を決める記事ではありません。
判断に迷ったときの考え方を持ち帰ってもらうことを目的にしています。
背景・前提条件
この記事で想定している前提は以下です。
- Web系の業務システム・Webサービス
- 2〜10人程度の開発チーム
- GitHub / GitLab を使ったPull Requestベースの開発
- CI/CDがある、もしくは導入予定
大規模組織や、リリース管理が極端に厳しい現場では別の判断もあり得ます。
ただし、多くのチームは「そこまで厳密である必要がない」ことも多い印象です。
ブランチ戦略が複雑になりがちな理由
まず、なぜブランチ戦略は複雑になりがちなのでしょうか。
1. 理想的なフローを先に作ろうとする
よくあるのが、
- 本番用
- ステージング用
- 開発用
- 機能開発用
- 緊急修正用
といった「起こりうるケースをすべて想定した設計」です。
設計書としては美しく見えますが、
実際には「ほとんど使われない分岐」が大量に生まれます。
2. ツールや記事に引っ張られる
Git Flowの記事や図はとてもわかりやすく、完成度も高いです。
ただし、それは「その前提条件に合った現場」で最適化されたものです。
- リリース頻度
- 人数
- 運用コスト
これらが違えば、そのまま適用する理由はありません。
3. 「失敗したくない」心理
ブランチ戦略は後から変えるのが面倒です。
そのため最初から「完璧なもの」を作りたくなります。
ですが、実務では完璧さよりも修正しやすさの方が重要になる場面が多いです。
複雑なブランチ戦略が生む問題
では、ブランチ戦略を複雑にすると、実際には何が起きるのでしょうか。
1. チームメンバーが理解しきれない
- 「今はどのブランチから切るんだっけ?」
- 「この修正はどこにマージすればいい?」
こうした確認が日常的に発生します。
ルールが存在すること自体がコストになっている状態です。
2. 例外対応が増える
どんなに細かくルールを作っても、必ず例外は発生します。
- 急ぎの修正
- 想定外の不具合
- 並行作業の衝突
結果として、
「今回は特例でこうしよう」
が積み重なり、
ルールの形骸化が始まります。
3. マージが怖くなる
ブランチが多いほど、
- マージ先を間違える不安
- コンフリクトの不安
- 巻き戻しの不安
が増えます。
これは開発スピードを確実に落とします。
シンプルなブランチ戦略の考え方
ここで一度、考え方を整理します。
ブランチ戦略の目的は何か?
ブランチ戦略の目的は、だいたい次の3つに集約されます。
- 本番コードを壊さない
- 複数人で安全に作業する
- 変更履歴を追いやすくする
この3つを満たせるなら、手段は最小で良いと考えています。
私がよく採用する「最低限」構成
実務でよく採用するのは、以下の構成です。
- main(または master)
- develop
- feature/*
main
- 本番と一致するブランチ
- 常にデプロイ可能な状態
- 原則として直接コミットしない
develop
- 次にリリースされるコードの集約先
- 検証環境と紐づくことが多い
- featureブランチはここにマージする
feature/*
- 機能単位・修正単位で作成
- 作業が終わったら削除
これだけです。
なぜこれで足りるのか
- 本番保護 → main
- 並行開発 → feature
- 統合ポイント → develop
役割が明確で、説明も一言で済みます。
release / hotfix ブランチを作らない理由
「releaseブランチは必要では?」と思われるかもしれません。
私の経験では、
- リリース頻度が高い
- CI/CDが整っている
- feature単位で安全にマージできる
この条件が揃っているなら、
releaseブランチは運用コストの方が上回ることが多いです。
緊急修正(hotfix)の場合
- feature/hotfix-xxx を main から切る
- 修正後、main と develop にマージ
これで十分回るケースがほとんどでした。
「将来困りそう」への向き合い方
ブランチ戦略をシンプルにすると、必ず出てくる不安があります。
将来、規模が大きくなったら困らない?
この問いに対する私の答えは、
「困ってから変えればいい」です。
- 実際に問題が発生した
- チームがその痛みを理解している
この状態であれば、
戦略を変更しても納得感があります。
逆に、問題が起きていない段階で複雑にすると、
「なぜこのルールがあるのか」が誰にも説明できなくなります。
実務で意識している判断基準
ブランチ戦略で迷ったとき、私は次の質問を自分に投げます。
- このルールは「毎日」使われるか?
- 新人が10分で理解できるか?
- 破ったとき、即座に問題が起きるか?
この3つのうち、
2つ以上がNOなら、そのルールは重すぎる可能性があります。
ブランチ戦略は「文化」でもある
ブランチ戦略は、単なる技術ルールではありません。
- レビュー文化
- 責任の持ち方
- 失敗への許容度
こうしたチームの性質が色濃く出ます。
だからこそ、
複雑な戦略を先に押し付けるより、チームに合った形に育てる方が長続きします。
まとめ
- ブランチ戦略は「守るための仕組み」
- 複雑さは、安全性ではなくコストを生むことが多い
- 最初は「最低限」で十分
- 困ったら、そのときに進化させればいい
ブランチ戦略で迷ったら、
「これは本当に今、必要か?」と一度立ち止まってみてください。
その問い自体が、
実務に強い判断を支えてくれるはずです。